コロナ禍に翻弄された2年間。イタリアとの往来やリアルな演劇が困難な中で、演目・内容も転々と変わり、練習会場は何度も使用できなくなり挫けそうになった。しかし私は大阪チームに参加して多様で素晴らしい仲間に出会った。それぞれが葛藤を持ちつつ、繋がり続け、中川さんから演劇の指導を受け、徐々に感情表現が獲得されていく。撮影での演技の迫力には驚くほどだ。この機会を提供してくれたドネガーニさんらボローニャ精神保健と、東京ソテリアには感謝している。
私は精神科病院で働いてきた看護師だ。納得できない精神医療で悶々としながら、精神病院大国の日本から対極にあるイタリア・トリエステ精神保健の視察に行ったことがある。案内してくれた看護師の言葉は今も心に残る。「精神科の看護師は、薬を飲ませて管理しているだけなら、刑務所の看守とあまり変わらない」その役割を意識してズラし、地域で生きる人に柔軟にケアすることが重要だと。今は訪問看護に転職した。
Matti Si, ma Schiavi No! 「狂人だけど 奴隷じゃない!」そうだ、「関係が隷属的で、檻の中にあるような状態」では「人として出会う」ことはできない。(バザーリア)
私は「看護だけど、看守じゃない」、精神保健の改革を志し、地域でその人らしく生活することに伴走する看護師でいたい。
劇中でマラーを讃えるルーの言葉は日本の精神保健改革に重なる。
「そしてある日君は革命に参じた。君は壮大な展望を得たんだ。われわれの状況を根底から変えるべきだと。変革なしにはどんな行為も無為になると」
有我 譲慶
「自らの足で立つ!」そんな目標を掲げ、このプロジェクトに参加した。
現実は思うように進まなくても、ありのままの自分をさらけ出し、どんな自分も許せるようになった。それが、自分を信頼すること、みんなを信頼することになり、ずっとつながり続けている。このプロジェクトをきっかけに、投薬・診療・福祉サービスを卒業してきている。自分が“患者”であることを手放せたのだ。これまで、“患者役”を演じていた自分に気づかされた。でも、もう必要なくなっていたのだ。それは、決して病気がなくなったのではない。病気は、私の大切な一部分になり、人生に豊かさと彩りを与えてくれるようになった。これからも、病気と、ともに手を取り、支え合って、生きていくのだろう。
これまで、「こんな私なんて…」と、散々自分を呪ってきたが、「このままでいい」と生まれて初めて思えた。この肉体とこの魂があれば、充分だと。毎日がよろこびに満ち、身体の奥底から震える。確かに“生きている”この一瞬一瞬が、奇跡の連続だ。これからも私は、もっと、もっと、なりたい自分に向かって、羽ばたいていく!
景井 由佳子
私の応募の一番の動機は、イタリアに行くことだった。
でも私は、大阪チームと出会えて幸せだ。このチームは、皆、高潔な人格を持っており、稽古を重ねていく中で、絆は強まっていった。稽古場の手配、PCの操作など精力的に行なってくれる。還暦を迎える今年、夢は膨らむ。
小西 文明
なぜこのプロジェクトに参加したかったのかを考えている・・
「イタリアに行きたい!」「観光旅行、仕事でもない、人生に全く触れたことのない演劇の世界を感じることができる」「新しい出会いが待っているかも・・」という期待と夢でいっぱいだった。しかし世界で猛威を振るう新型コロナウイルス感染拡大に状況は一変。
イタリアに行く!という想いは果たすことができなかった。それは残念なことであったがプロジェクトや演劇を通して、仲間とともに右往左往しながら一歩一歩進んできたことは大切な時間だった。演劇とは、コミュニケーションの芸術。同じ空間に存在し、お互いに影響を与え合うもの・・と教えて頂いた。自分と向き合い、仲間と向き合ってきた大切な2年間は、私のこれからの人生にどう影響するのかとても楽しみだ。プロジェクトに携わっていただいた東京ソテリアの方々には感謝申し上げます。
Suzy
自分自身は、プロジェクトに参加してみて良かったと思う。コロナ禍でイタリア行きが無くなったのは凄く残念だが演劇を通して新しい絆が生まれた。なかなか全体練習もできないときもあったり、イタリアに行って演劇を見れないこともあったり、なかなか今後の方向性も決まらないときもあったりしてコロナ禍に翻弄されて来たが最後まで遣り切るんだと思う強い気持ちでここまできた。演劇をやる上でまだまだ未熟だが、プロジェクトに参加する以上は後悔をしたくない。そしてこのプロジェクトで出会ったメンバーとの絆も大事に持ちこれからも繋がっていきたい。逆にコロナ禍の影響で対面での練習も減りオンラインでやることが増えたがそれはそれで良かったんだと思えるようになった。演劇を通して、表現のなかで、自分の、依存の病気、夢、希望、絆、仲間、などを見せたいと思う。まだまだ、ウイルスとの戦いは世界で続くがそれに負けずにいろんなかたちで自分を表現していき、いつかはきっと、誰かに何が伝わると信じて生きていく。また、同じようなプロジェクトがあれば自分をしっかり持ちありのままを出せるように参加してみたい。
たか
「chicoさん、イタリアへタダで行けるよ!」と仲間からの第一声!私は思わず、家族にも確認をとらず、オーディション申し込みのFAXをした。その後、オーディションに受かりかれこれ2年弱、私は病との闘いだった。まず、骨折で3カ月の入院。仲間に助けてもらって、ギブスをしたまま大阪への練習に、泊まりがけで参加したのも良い思い出。その半年後、大病が見つかり、手術と治療手術入院の時と昨年のイベントが重なり、当日は参加出来なかったものの、皆がチコちゃんの人形を持って参加してくれたから、一人じゃないって、嬉しくて病室でウルウルしていたのを思い出す。その後、半年間の治療を経て、飲み薬に変わった時に、副作用で眠れなくなって、また2カ月弱の入院と、この2年間は病気のデパートみたいで、本当に苦しかった。それでもくさらずに居れたのは、このプロジェクトに参加したいという目標や気持ち、励まし応援してくれた仲間や友人、知人のお陰です!改めて人とのつながりを感じた2年間。プロジェクトに参加させてもらって、本当にありがとうございます。
Chico
アルテ・エ・サルーテ劇団の「マラー/サド」浜松公演で体の奥から湧きあがった純粋な感動からこの取組に飛び込んだ。程なく、コロナ禍という未曾有の事態に見舞われた。そのさなかの取組であり、仕方ないのだろう。いつまでもやることが決まらない。けれど助成金執行期限や世界精神保健デーなど期日があり、それに間に合わせるために直前にわっと課題が降ってくる。最後の見栄えだけを求められている気になる。商品として消費されているように感じ、遣る瀬ない。頭は説き伏せても、感じる体は正直だ。
何度もくじけそうになったが、やめずに来られたのは、一緒にやってきた大阪チームの仲間がいたからだ。この取組で出会えた日本の演劇指導者、中川義文さんにはこころから感謝している。まっすぐな演劇へのおもいを大切にしていただけ、そのときどきに可能な範囲で血の通った素晴らしい指導をしていただいた。そのあたたかさ、人柄に触れられたこと、初めての演劇世界に演じる側から中川さんを通して触れさせていただけたことは大きなよろこびで、しあわせだった。その機会をいただけたのはこの取組に参加させていただけたからだ。ありがとうございました。
蓑島 豪智
なかちゃん(中川 義文さん)へ
演じる側からの演劇との出会いはなかちゃんを通じてでした。
その初めての経験でなかちゃんに教えていただけたことに本当にしあわせを感じています。ぼくたちのそれぞれの状況に細やかなお気遣いをいただきながら、楽しく、全身、五感をフルに使って、「演じる」という世界に導いていただきました。
内面にアクセスしつつ、人と交わるという、楽しく、わくわくする刺激的で体がふるえる経験をさせていただきました。本当にありがとうございます。
この出会いは宝物です。これからも、ずっと、よろしくお願いいたします。
ともちゃん(蓑島 豪智)
山中先生へ
歌のご指導ありがとうございます。
プロの方に教わるのは、皆初めてだったのに、発声のしかたから丁寧に教えてくださったお陰で、楽しく学ぶ機会を作って下さり感謝しています。ありがとうございました。
Chico
田中さんへ
2日間、親身な撮影有難うございました。おかげで、記憶に残る動画が完成して嬉しい限りです。
ルーこと、小西 文明
ひとつぶの種・秦さんへ
稽古や撮影に会場を使わせていただきました。
ほっこりできる、ゆったりほぐれる そんな空間でお芝居ができる時間をいつも楽しみにしていました。素敵な場所をありがとうございました。
そんな「ひとつぶの種」から、みんなの輝く芽が出ました。
景井 由佳子
ソテリア・塚本さんへ
正直、このプロジェクトの迷走についていくのはたいへんでした。
でも、コロナ禍のため。そのすべてを間に入って、ぶつかっても、居つづけて、話し合いをつづけてくださいました。当たらせていただいた。きっとおつらいことも多かったと思います。お陰様でここまで来ました。ありがとうございます。
蓑島 豪智
撮影の前日に調子を崩し、最後の少ししか参加できなかった。その後、ソテリアの塚本さんも一緒に、10月の本番に向けてのミーティングをした。その途中から温かい気持ちが湧いてきた。私にとって、ルーの言葉は大きかった。「二年間、せっかくみんなで頑張ってきたから、みんなで参加したい。みんなで、やり終えたい。」その言葉に、そう思いたいのに、そう思えない自分との葛藤があった。だけど、、、だから、、、自分のためじゃなくて、必要としてもらえているみんなのために、ただただここに居続けられればいいのか。もしかして、それは今までの私が、ずっと出来ずに悩んできたことを乗り越えることになるのか。もっと、みんなを頼ればいいのかと思えた。
塚本さんも含め、あの場にいる全員が対等に無力で、なんの答えも解決策も持っていない。だけど、今の自分はこうだ。こう思っている。こうしたい。と、それぞれが出し合い、話し続けることで、なんとなくみんなの心地いい方向に流れたような気がした。
なんかすごいな。それでいいっか。いや、それが最高だって。
気がついたら、このチームができた時から、それはずっと続いていて、様々な事情で誰かがその場をともにできなかったとしても、繋がり続けている。
ボロボロになっても、手を離さない人たちに囲まれてしあわせです。塚本さん、私のしんどさを受け止めてくださって、つながりを届けてくださり、ありがとうございます。
景井 由佳子
ドネガーニ先生へ
演じる人として選んでいただいたけれど、支援者としての立場でのサポートも求めていただきました。先生が言うサポートとは何かを知りたくて、幾度か訊きました。先生は、ちょっと考えておられてそののちに教えていただいたものはいつも同じでした。
「一緒にいること」。このシンプルな、けれど極めて人間的で、そして最終的にいちばん大切なことを繰り返して教えていただきました。少しずつですが、身に沁みてきています。そして、これは多分人と人との間の営みの大切な揺るがない基本ではないかと感じるようになっています。 そして、先生はどんな困難な局面にも希望を見いだし、それを言葉にしてくださり、見失いかけていた、けれどしっかりあり続ける光の存在を思い出させてくださり続けました。 先生の実践の魂を、経験に裏付けされた揺るがない日常の言葉で教えていただき、身をもって体験させていただける機会を得られたことはよろこびです。 ありがとうございました。
ソテリア・野口さん、そしてソテリアのみなさんへ
コロナ禍で悩まされているときに、宇宙人的な発想に翻弄されましたが、野口さんのスケールの大きい発想と、ソテリアの皆さんの大雑把で困ることがあるけれど、ある意味それゆえに細事にこだわらず大きな道を切り開ける底知れない実行力がなければ、この経験は得られませんでした。ありがとうございました。
くるみざわしんさんへ
大変お忙しい中、このプロジェクトを見守り、演劇人としてのコメントをいただき、ありがとうございました。
そして、お稽古にも来ていただき、素朴にみていただき、驚きとともにすばらしいコメントをいただけたことは、素人ながら熱ばかりで飛び込み、がむしゃらにしていたトライに大きな励ましとなりつづけ、密かな自信をもたらしていただけ、お稽古を続けていく上で、大きな支えになりました。ありがとうございました。
ソテリア・栗原さんへ
いつもドネガーニ先生やガレッラ監督の早かったり長かったりするお話を通訳してくださり、またこの取組に関連するいろいろな資料の翻訳を切迫した時間の中で続けてきてくださり、ありがとうございました。 栗原さんのバザーリアやイタリアの思想や芸術への理解を背景にした通訳があったからこそ、イタリアのスタッフとの意思疎通がとれたのだと思います。 ありがとうございます。
蓑島 豪智
横田 さやかさんへ
お忙しい中、「マラー/サド」の訳を作っていただきありがとうございました。映像になったカットでは横田さんの訳による日本語で演じることができました。ストーリーの理解の導きになり、自分の言葉として発することができました。ありがとうございました。
高田先生へ
演劇やイタリア文化に対する広い視野から、なかなか思うように進まず、苦しかったこのプロジェクトを、なんとか実現できるように、いつも現実的な明るい発想で支えていただきました。ありがとうございました。
アンジェロ・フィオリッティさんへ
2018年の東京公演の懇談会からお話をうかがっていました。アルテ・エ・サルーテの演劇活動について「繊細な部分もあるが、彼らは患者である前に、市民であり、芸術に従事する労働者でもある。仕事をして感じる喜びと誇りは同じ」との言葉に私は強くうなづきました。また、2020年の世界精神保健デーでのリモート対談の言葉は衝撃的でした。イタリアはコロナ禍でとても大きな被害を受けました。しかし「高齢者の被害は大きかったが、精神保健利用者の被害は小さい。地域で生活し、精神保健サービスを受けるようになったからだ。これは精神病院を廃止した大きな成果だ。」イタリアと対極にある日本では、閉鎖病棟で外出も制限されている精神病院では、国内の感染率や死亡率の3~5倍という大きな被害を受けています。これは精神病院への収容政策の結果です。パンデミックで、やはり根本的な問題が浮き彫りにされています。精神病院への収容主義から、誇りをもって生きていける地域精神保健への転換が必要なのだと、あらめて実感させてもらう機会となり感謝しています。色々な機会で伝えさせてもらっています。
有我 譲慶