みなさんと出会って
私は、参加者の方々への歌唱指導として2019年の年末あたりからこの企画に合流しました。その頃はもうオーディションも終わっていてこれからどうやって稽古を重ねていこうか、という時期だったように覚えています。
ガレッラ監督とはzoomで打ち合わせを重ねました。
「全ての芸術は真実を暴く」
その中で特に印象に残っているガレッラ監督の言葉です。
私がした質問への答えだったのですが質問の内容は忘れてしまいました!汗
ただ、この言葉のもつ大きさに驚き、そしてなぜ『マラー/サド』なのかの答えのような気もしてずっと心に残っています。打合せを重ねる中で、時間をかけて育まれてきたアルテ・エ・サルーテにとっての舞台芸術と、日本にいるわれわれがいま必要としている表現の場としての演劇とではもしかしたら少し違うところもあるのかもしれない。と考え始めたのは、コロナ禍のために移動の制限が出始めた2020年の春頃でした。
プロとして人前に立つための訓練をする前に、この企画に参加を決めた人たちがこの場所に本当に求めていることは何だろう。
演劇と一言に言ってもそこにはたくさんの要素があります。
お祭り的な側面。訓練を通して新しい発見がある側面。自己表現の側面。そして、仲間ができるという側面。
技術を磨くためにボローニャで実践されることを移植するのともまた違う、物語の上演を目指しつつもその過程で自分自身を知り、まずは外にエネルギーを出してみる。
今のわれわれにフィットした進め方もあり得ると思い、限られた時間ではありましたが試行させていただきました。
その時間は指導者というより、みなさんと一緒になんとかやってみる!みたいな感じでとても楽しかったです。
否応にも本番に向かっていく状況の中、そのプロセスの中で参加者の方それぞれが自分自身の声を見つけられるような旅路。
「マラー/サド」の物語は入口から出口までがまっすぐな気持ちの良い道ではありません。時にぐにゃぐにゃしたり激しかったり。行くのがためらわれる道かもしれません。
しかし、それはあくまでもお話の中の出来事で、言ってみれば心と体を使って飛び込むアスレチックの様なものかも、と思います。
そのアスレチックに飛び込んだ時に暴かれる、その人にとっての真実というのもあるんじゃないか。
物語そのものが真実でなくても、それを通して獲得されるものが参加者の方々にとって大切な体験になってゆかれる事を祈っています。
そして、願わくばその真実がお客様の心にも届きますよう!
辻村 優子